ボッシュ株式会社
代表取締役社長、クラウス・メーダー
ボッシュ株式会社 フュージョンプロジェクト推進室シニア・ゼネラル・マネージャー
兼渋谷施設管理部ゼネラル・マネージャー兼渋谷本社事務所長、下山田 淳
によるスピーチ
2022年2月24日


本稿は実際の内容と異なる場合があります。


代表取締役社長クラウス・メーダーからのご挨拶
みなさまこんにちは。今日は大変多くの方にご参加いただき、感謝いたします。

本日はみなさまに、日本のボッシュ・グループの未来をつかさどる新たな研究開発拠点に関してご説明させて頂きたく、この場を設けさせて頂きました。

自動車業界は、SPACE(S:ソフトウェア、P:パーソナライズ化、A:自動化、C:ネットワーク化、E:電動化)により、これまでにない変革が進められています。これは、IoTやAIなどの技術の進化により実現しているものです。この変革の一翼を率先して担う企業として自動車業界に貢献できることを、大変嬉しく思うとともに、ワクワクしています。ボッシュでも、未来のモビリティを安全、サステイナブル、そしてエキサイティングなものとするとのビジョンのもと、電動化、自動化、ネットワーク化、そしてパーソナライズ化に取り組んでいます。ボッシュは、自動車業界において技術力をさらに高め、リーダーシップを拡大し、強みを発揮していきます。

新研究開発拠点の設立により日本国内における開発能力を強化
未来のモビリティに向かう道筋において、車両システムにおける高度な電気・電子化ソフトウェアの重要性は急激に増しています。その結果、自動車の開発もますます複雑さを増しています。ボッシュでは、昨年1月にクロスドメインコンピューティングソリューションズ事業部を始動しました。ここでは、事業領域をまたいだソフトウェアとエレクトロニクスの技術で、未来の車両システムの複雑さを低減、コントロールするソリューションの提案を担っています。ボッシュはこのように、既に領域を横断する取り組みを進めています。しかしながら、未来のモビリティを実現するためには、事業部を横断した知識の共有、そして様々な分野を統合したワークフローやプロジェクトマネジメントが重要です。

この考えのもとに進めているのが、新しい研究開発施設の建設と設計です。私たちは1990年に横浜市都筑区に最初の研究開発施設を設立しました。以来、日本の自動車メーカーとの協力関係と革新性を強めて来ました。例えば、ガソリンエンジンの高効率化、アンチロック・ブレーキ・システムやエレクトロニック・スタビリティ・コントロールなどの安全技術の適合強化などが挙げられます。成果をあげるとともに、絶えず従業員を増員してきました。それに伴い、既存施設の拡張や、横浜に複数の事業所を借りるに至りました。

そして今回、既存の研究開発施設からわずか2キロメートルの場所に、新たな研究開発施設の建設を進めています。日本において、ボッシュ・グループが技術や市場の根本的な変化に対応するため、そして日本のお客様のニーズに応じた製品やサービスを提供するための、重要な拠点となります。

この新しい施設は、横浜市都筑区の、センター北駅から徒歩5分の場所に位置します。地上7階、地下2階、延べ床面積が5.3万平方メートルの施設です。この延床面積は、既存の横浜の研究開発施設の2倍以上です。ボッシュはグローバル全体でソフトウェア人材を毎年10%増やしており、日本においても今後数年間で200名超のソフトウェア人材を新たに採用していきます。今後注力するソフトウェア人材やAIに精通した人材の増加にも、十分に対応できるだけの広さを有しています。この新社屋では、車両制御、安全システム、運転支援および自動運転、HMI(ヒューマンマシンインターフェイス)、車載電子部品、車載ソフトウェア、ネットワーク化サービス、エンジニアリング、オートモーティブアフターマーケットなどの事業部やグループ会社を集約させます。

同時に、モビリティ事業以外の、産業機器、消費財、エネルギー・ビルディングテクノロジー事業セクター傘下の事業部ならびにグループ企業も同施設に移転します。また、現在渋谷に置いている本社も、この研究開発施設に移転します。全体で、現在東京横浜エリアの8拠点に広がる従業員の約2,000名が集約されることになります。

なぜ日本のボッシュ・グループが今、大規模な新社屋を建設するのかと思われる方もいるかもしれません。特に、コロナ禍においてオフィスの使用率が下がり、多くの企業がオフィスの見直しを進めている時です。理由として、ふたつ挙げられます。まず、研究室を有する独自の研究開発施設を構えることで、長期的な視野にたち、より自由に開発が進められる環境を整備します。二つ目の理由としては、ボッシュは対話(ダイアログ)を重視する企業であることが挙げられます。対面でのコミュニケーションは、従業員間のコラボレーションを促進し、創造性を高めると確信しています。新社屋には、ワークショップやトレーニングなど、対面だからこそ実現できる場を設けます。この統合により、従業員間のコラボレーションが促進され、多くの先駆的なアイデアが生まれ、ボッシュの国内事業のさらなる成長につながると確信しています。新社屋は2024年9月に竣工の予定で、2024年12月までに移転を完了させる予定です。

なお、既存の研究開発施設では、パワートレイン関連の研究開発と、二輪車およびパワースポーツ事業のグローバル本部としての役割を継続します。この都筑区に位置するふたつの研究開発施設に、ボッシュ・グループ全体の4割以上の従業員が集約されます。パワートレイン関連は、埼玉県東松山市にある拠点でも継続して研究開発がすすめられますが、この横浜の2拠点を軸に事業部間の協業・連携を推進して国内の開発体制のさらなる強化を図ります。

ボッシュはこの建設プロジェクトに、約390億円を投じます。この投資額は、1911年に日本でビジネスを開始して以来、日本におけるボッシュ・グループの設備投資という観点では、最大の投資額となります。この新たな研究開発拠点の建設は、日本での事業展開をより強固なものにしたいというボッシュのコミットメントを表すものです。また、ボッシュがいかに日本市場、そして日本のお客様を重要視しているかを物語っています。

さらに、この建設プロジェクトでは、当社が横浜市より都筑区の区民文化センターの事業主として決定されたことから、敷地内にボッシュの研究開発施設だけではなく、区民文化センターも建設します。ボッシュは世界中のあらゆる場所でビジネスを展開していますが、今回、ボッシュが企業市民として官民一体となり街づくりプロジェクトに参画するのは、グローバル全体で見ても初めてのことです。

また、このプロジェクトでは、地域の賑わい創出も期待されています。ここで、今回のプロジェクトをリードする下山田淳より、地域の賑わい創出という観点からご説明させて頂きます。

地域の賑わい創出に向けた取り組み
この建設プロジェクトのリーダーを務めております、下山田でございます。

ボッシュでは、新しい研究開発施設と、この区民文化センターを総じてFUSIONプロジェクトと呼称しています。FUSIONの事業コンセプトは、「歴史ある都筑の文化とグローバルテクノロジー企業のFusionすなわち融合による、新しい未来型文化拠点づくり」です。この事業コンセプトを軸として、新社屋と区民文化センターの相乗的な賑わいを創出し、地域活性化に繋げます。建設にあたり、自社の成長にのみ焦点を当てるのではなく、ここで暮らすみなさまのご期待に応え、未来に続く都筑の文化を育む街づくりに貢献していきます。

ボッシュは1911年、この横浜エリアで日本でのビジネスを開始しました。1990年に研究開発施設の建設地として選択したのも、横浜市の都筑区です。以来、このエリアとともにボッシュは成長して参りました。この都筑区には、本国のドイツから赴任している駐在者やその家族も多く居住し、コミュニティに溶け込んでいる従業員が多くいます。このようなボッシュにとって親しみのある地で、あらたな研究開発施設、そしてボッシュ・グループのブランド発信拠点となる施設を設立できることを、大変光栄に感じています。

ボッシュは2015年、日本における最初のブランド発信拠点として、渋谷本社1階にボッシュの最新の製品やテクノロジー、サービスを紹介するショールームを併設した「café 1886 at Bosch」をオープンしました。ブランドコミュニケーションの一環として、一般のお客様を対象とした商業的なカフェを運営するのは、ボッシュ・グループにとっても世界で初めての試みでした。日本のみなさまに、ボッシュというブランドを身近に感じて頂きたいという想いで立ち上げたカフェには、これまで約40万人の方々にお越しいただきました。

そして今回、当社が手掛けるのは、ボッシュの社屋と区民文化センターという公共施設を組み合わせた、独特のプロジェクトです。グローバルで見ても、公民連携の不動産プロジェクトに参画すること、そしてその賑わい醸成に努めることは、いずれもボッシュ・グループ初の試みです。区民文化センターへの年間予測来訪者数は20万人と、大幅に増加します。そのため、今回、このFUSIONプロジェクト全体を通じて、café 1886 at Boschよりも壮大なスケールで、日本の方々にボッシュを知って頂くための場としていきたいと考えています。

また、今回私たちはボッシュの施設だけではなく、都筑区民のみなさまが集う場所となる区民文化センターの建設をお任せいただきました。そして、この地を活気ある場所にして、地域の方々やこのエリアを訪れる方々の豊かな暮らしに貢献することを横浜市にお約束しました。区民文化センターの来訪者だけでなく、一般の方々にも年間を通じて楽しんでいただける場所にするために、私たちは今後様々な取り組みを推進します。

それでは、区民文化センターならびに私たちの計画中の取り組みについて、具体的にご紹介してまいります。

区民文化センターは、横浜市の要求水準等に基づき、設計施工します。地上4階、地下1階で、2階には約300席のホールを、1階にはギャラリーやリハーサル室を設けます。また、区民文化センターとボッシュの新社屋をつなぐ連絡橋を設けます。免震構造を採用し、どのような世代の方々でも安全で快適に過ごせるよう、バリアフリー、安全、災害にも強い設計としています。この区民文化センターは、2024年9月に竣工の後、横浜市に売却します。2024年度中、すなわち2025年3月までに開館となる予定です。

ボッシュの新社屋の1階には、一般の方々の憩いの場となるカフェ「café 1886 at Bosch」を併設する予定です。ドイツの文化やボッシュの要素を取り入れた心地よい空間のなかで、地域のターゲット層に合わせたメニューを提供します。同じく1階には、最新のボッシュの製品やサービス、情報そしてボッシュのコンセプトを伝えるショールームも設置します。

区民文化センターとボッシュ棟の間には、全天候型の広場を設けます。ボッシュも第1回目から参画している都筑区のドイツクリスマスマーケットなどの地域イベントが、年間を通じて実施可能な設計としています。区民の方々が日々の暮らしのなかで、自由に楽しく行き来できる環境を整備し、広場を中心とした賑わいづくりの創出と、地域連携に貢献していきます。これらの計画を実現するためにも、関係各所と緊密に連携し、協力を仰いでいきたいと考えています。

また、元々このエリアは、森林と水辺、そして歴史的な遺産を緑道で結ぶ都市計画、通称「グリーンマトリックスシステム」に基づいて整備されています。そのため、住みやすい街づくりが進められながらも、郷土の豊かな自然が保全されています。ボッシュが本拠地とするドイツも、豊かな自然を満喫できる場所が至る所にあり、この考え方に大変共感しています。FUSIONプロジェクトの敷地も同様に、敷地内に植栽や緑地を整備し、ここを訪れる方々にくつろぎの空間を提供します。

なお、このFUSIONプロジェクトにおけるサステナビリティへの取り組みは、緑化だけにとどまりません。ここでメーダーより、ボッシュの、そしてこのプロジェクトにおけるサステナビリティへの取り組みについて、お話しさせて頂きます。

新社屋におけるサステナビリティに対する取り組み
ボッシュは2020年春に、世界的に事業展開する事業会社として初めて、カーボンニュートラルを達成しました。現在は、サプライチェーン全体で、製品のライフサイクルを通じて発生するCO2排出量を、2030年までに15%削減するという目標に取り組んでいます。量にすると、2018年基準でボッシュの全拠点における排出量のおよそ20倍にあたる、6,700万トンの削減を目指しています。このように、ボッシュは気候変動に関して非常に真剣に取り組んでいます。これは、義務であるだけではなく、未来を創造する機会として捉えています。

ボッシュの新しい研究開発施設も、当社の技術や自然資源を最大限に活用した取り組みを多く採用します。当社のサステナビリティに対するコミットメントを体現しています。

例えば、ボッシュでは、水素にはエネルギー媒体としての明るい未来があると信じており、モビリティ用途の水素アプリケーション向けの製品ポートフォリオのみならず、都市ガス(天然ガス)からバイオガス、水素という様々な燃料で稼働可能で、電気と熱を生成する定置型燃料電池(SOFC)の開発を進めています。燃料電池に水素を使用すれば、直接CO2を排出することはありません。

ボッシュの新社屋には、都市ガスで稼働するSOFCシステムを導入し、電力を生成します。ボッシュは既に、ドイツ国内の複数の拠点でSOFCのパイロット導入をしていますが、アジア太平洋地域の拠点での採用を決めるのは、この横浜の施設が初めてです。

2024年のオープン当時には、SOFCシステムを実証実験向けに導入する予定です。一般的な火力発電所から提供される電力と比較して、横浜にて都市ガスで稼働させた場合、CO2排出量や電気代をそれぞれ20%程度削減できる見込みです。また、SOFCからの排熱を空調用の熱源として有効利用することも視野に入れており、更なるメリットを見込んでいます。2026年には、最大数百 kWの発電まで拡大することも視野に入れています。

屋上には太陽光パネルを設置します。50kWの太陽光パネルにより、年間で50MWhのグリーンエネルギーの生成を予定しています。

また、快適かつ環境に配慮した空調設備として、ルーバーと、自動換気システムを採用します。窓にルーバーを設置し、30度傾けることで、太陽光から受ける日射量を従来の約半分に抑えます。これにより、室内の気温の上昇を抑え、空調にかかる負荷を軽減します。

センサーで自動的に窓を開閉する自動換気システムには、ボッシュのセンサーを活用する予定です。晴れている日の温度や湿度、花粉やPM2.5の状態をセンサーが自動的に検知し、自動的に窓を開閉して換気します。これにより、冷房および機械換気にかかる総電力需要を、年間で約68MWh削減します。

また、この施設では電力需要以外の面でも環境に配慮した取り組みを進めます。ボッシュでは、水をすべての生命の根源と捉えており、水を保護することも私たちの責任であると考えています。この施設においても、地下に330立方メートル容量の雨水タンクを構え、雨水を貯蓄してろ過、施設にて再利用することで、年間13%の水利用の削減につなげます。

このように、自然資源を活用してエネルギーの生成、CO2排出量の削減、水資源の有効利用に努め、環境に配慮した施設とします。

また、建設過程においても、日本のボッシュ・グループにおいては初めてとなる、デジタルツインを導入します。これは、ボッシュが2021年6月に正式にオープンした、ドイツ・ドレスデンの半導体工場建設にも取り入れられたものです。企画、設計から施工、そして完成後の管理に至るまでのすべての過程において、ビルディングインフォメーションモデリング(BIM)により3Dモデルで再現した建築物に、インフラやケーブルダクトなどの建築物にまつわる様々な情報を集約し、デジタルツインを実現します。これにより、実際に進行中の作業に影響を及ぼすことなく、プロセス最適化の計画と修繕作業のシミュレーションを行うことが可能となります。これにより、建設における無駄を省き、コスト、使用する資源量、カーボンフットプリントを削減し、サステナビリティと循環型経済の推進につなげます。

最後になりますが、このFUSIONプロジェクトにより、自動車市場に向けた新たなイノベーションの創出、地域社会における新たな賑わいの創出、サステナビリティにおける新たな取り組みと、様々な新しい取り組みがはじまります。すなわち、日本のボッシュ・グループにとっての新しい章が始まります。

ボッシュは将来的に、日本の自動車産業のサプライヤーとして主導的な役割を果たし続けるだけではなく、都筑区の活気ある地域社会にも貢献していくことになるでしょう。

日本のボッシュ・グループは、横浜の新しい施設によって素晴らしい未来を手に入れます。ボッシュは次の100年、そしてその先も、モビリティの未来を牽引するイノベーションを生み出すとともに、日本市場そして地域社会に貢献していきます。

ご清聴、ありがとうございました。